高度専門職の申請中に転職が決まった場合の対応と入管への報告#
高度専門職(Highly Skilled Professional)の在留資格を申請中、審査結果が出る前に転職が決まったり、所属予定の機関が変更になったりするケースは稀に発生します。通常の就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)であれば、職務内容が変わらなければ柔軟な対応が可能な場合もありますが、高度専門職の場合は制度の仕組みが根本的に異なるため、非常に慎重な対応が求められます。
ここでは、高度専門職の申請中に所属機関が変わる(転職する)ことになった場合、入管に対してどのように相談・対応すべきかについて、制度の法的性質に基づき解説します。
高度専門職における「所属機関」の重要性#
まず理解しておかなければならないのは、高度専門職(特に1号イ・ロ・ハ)という在留資格は、法務大臣が指定した「特定の機関(会社や研究機関など)」で就労することを条件に許可されるという点です。これを「所属機関の指定」といいます。
一般的な就労ビザでは、在留カードに企業名は記載されず、活動の範囲(エンジニア、通訳など)が合致していれば、在留期限内に転職しても直ちにビザが無効になることはありません。しかし、高度専門職の在留カードには表面には記載がありませんが、パスポートに貼付される指定書において「どの会社で働くか」が厳格に指定されます。
したがって、申請時に審査対象となっていた雇用契約(A社との契約)が存在しなくなった時点で、その申請の前提条件が崩れることになります。
審査中に転職が決まった場合の影響#
申請中にA社からB社へ転職先が変わった場合、審査に以下の重大な影響を及ぼします。
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ポイント計算の基礎が変わる 高度専門職はポイント制によって審査されます。ポイント計算の項目には「年収」が含まれており、これは契約機関からの報酬に基づきます。転職先(B社)での年収がA社と異なる場合、ポイントの合計点が変わるため、再計算が必要です。また、B社がイノベーション促進支援措置を受けている企業か、中小企業かなどによって加点項目も変動します。
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申請内容の同一性が失われる 入管の審査は、申請時点(および審査時点)での事実に基づいて行われます。「A社で働く」という申請に対して、「B社で働く許可」を出すことは、申請内容の同一性がないため、原則としてできません。
入管への事前相談と具体的な手続き#
転職が決まった、あるいはA社への入社を取りやめた時点で、速やかに入国管理局の審査部門へ連絡・相談をする必要があります。手続きの流れは一般的に以下のようになります。
1. 申請の取り下げ(Withdrawal)#
原則として、A社をスポンサーとして提出している現在の申請は「取り下げ」を行うことになります。なぜなら、審査の前提となる雇用契約が消滅しているため、そのまま審査を続けても不許可になるか、あるいは誤ってA社指定の許可が下りてしまった場合、B社で働くことは不法就労(資格外活動)になってしまうからです。
2. 新たな申請の実施#
B社での雇用契約書、B社の会社案内、新しいポイント計算表などの必要書類を揃え、改めて高度専門職の申請を行う必要があります。
3. 実務上の「スライド」の可能性について#
ごく稀なケースとして、審査の進捗状況や管轄の入管によっては、取り下げと新規申請を同時に行うことで、提出済み書類の一部(卒業証明書や独身証明書など、変更がない公的書類)の流用や、審査の引き継ぎを相談できる場合があります。しかし、これは権利として認められているものではなく、あくまで審査官の裁量や事務処理上の便宜に過ぎません。基本的には「旧申請の取り下げ」と「新申請の提出」が必要であると認識してください。
報告を怠った場合のリスク#
もし、「許可が下りてから変更手続きをすればよい」と安易に考えて、転職の事実を隠したままA社名義での許可通知を受け取った場合、重大な法的リスクを負うことになります。
A社で働くことを前提とした許可(在留カード・指定書)を持ってB社で就労を開始すると、それは許可された活動範囲外の就労となり、不法就労に該当します。また、虚偽の申請(働くつもりがない会社での申請)を行ったとみなされれば、在留資格の取消事由にも該当し、将来にわたって日本での在留が困難になる可能性があります。
まとめ#
高度専門職の申請中に転職が決まった場合は、直ちに管轄の入国管理局に連絡を入れることが必須です。高度専門職は特定の機関に紐付いた資格であるため、申請内容の修正(Amend)で対応することは難しく、基本的には申請の取り下げと再申請が必要となります。空白期間を作らないためにも、新しい就職先(B社)と連携し、速やかに新しい申請書類を準備した上で、入管の窓口へ相談に行くことがもっとも誠実かつ確実な対応策です。