高度専門職:ポイント算出時に使用した「論文」の引用数が減った場合の取り扱い#
日本の在留資格「高度専門職(Highly Skilled Professional)」は、学歴、職歴、年収、年齢、そして研究実績などの項目ごとにポイントを加算し、合計が70点または80点に達した場合に優遇措置が与えられる制度です。
研究者やアカデミアに所属する方々にとって、「研究実績」の項目はポイント獲得の重要な要素となります。その中には、「責任著者である論文が、法務大臣が告示で定めるデータベースにおいて他論文に引用された回数が25回以上あること」という基準が存在します。
しかし、学術データベース(ScopusやWeb of Scienceなど)の数値は、データベースの更新や統廃合、あるいは引用元の論文撤回などによって変動することがあります。ここでは、申請時や許可後に論文の引用数が減少した場合の、入管法上の取り扱いと注意点について詳しく解説します。
申請時点での「スナップショット」が基準#
まず、入管手続きにおける大原則として、審査は「申請受理時点」または「立証資料の日付」に基づいて行われます。
新規申請や変更申請の場合#
高度専門職のポイント計算は、申請を行うその時点で、客観的な疎明資料(証明書やデータベースのプリントアウトなど)によって証明できるかどうかが鍵となります。
もし、あなたが申請を行う日にデータベースを出力し、その時点で引用数が「26回」であったとします。その資料を添付して入管に提出した場合、審査官はその資料を正当なものとして扱います。仮に、審査期間中(申請から結果が出るまでの数週間〜数ヶ月の間)にデータベース上の数値が更新され「24回」になったとしても、通常、入管がリアルタイムでデータベースを監視し、申請を不許可にすることは稀です。
入管審査は、提出された時点での事実状態(スナップショット)を基に判断するのが基本だからです。ただし、あまりに悪質な操作や、申請直後に大幅な訂正が入ったことが公知の事実となった場合などは例外となり得ますが、通常のデータベース更新による微減であれば、申請時の数値が尊重される傾向にあります。
在留期間中の引用数減少による影響#
無事に許可が下り、在留カードが発行された後のことを考えてみましょう。高度専門職1号の在留期間は通常「5年」が付与されます。
この5年間の間に、データベースの整理が行われ、申請時に使用した論文の引用数が25回を下回ってしまった場合、在留資格は取り消されるのでしょうか。
在留資格の取消事由には該当しない#
結論から申し上げますと、許可後の引用数減少によって、ただちに在留資格が取り消されることはありません。高度専門職の要件は「申請時にポイントを満たしていること」であり、在留期間中のポイント維持を毎日監視されるわけではないからです。
ただし、年収要件のように「予定していた年収を下回った」場合などは次回の更新に影響しますが、論文の引用数という外部要因(他者の引用状況やデータベースの仕様変更)による変動については、現在の在留期間中においては法的地位を脅かすものではありません。
在留期間更新(延長)や2号への変更時のリスク#
最も注意が必要なのは、在留期間の更新(Extension)や、高度専門職2号(HSP ii)への変更申請を行うタイミングです。
再計算のルール#
入管法上の手続きにおいて、更新や資格変更を行う際は、「その申請を行う時点」での状況に基づいて、再度ポイント計算を行う必要があります。
つまり、5年前の初回申請時には引用数が30回あってポイントが加算できていたとしても、更新申請の時点で引用数が24回に減っていた場合、その論文実績によるポイント(通常15点または20点など)は加算できなくなります。
これは非常に重要なリスク管理のポイントです。過去に認められた実績であっても、更新時の現況において基準を満たしていなければ、ポイントとして計上することはできません。
対策と準備#
したがって、研究実績でポイントを稼いでいる方は、更新時期が近づく数ヶ月前からご自身の論文引用状況をデータベース(Elsevier社のScopusやClarivate Analytics社のWeb of Scienceなど、指定されたもの)で確認しておく必要があります。
もし引用数が基準を下回っている場合は、以下の対策を講じる必要があります。
- 他の論文での実績証明: 他に引用数が25回以上の論文がないか確認する。
- 他の研究実績項目の利用: 論文の本数(3本以上)や、競争的資金の獲得実績、特許の取得など、他の「研究実績」項目でポイントを代替できないか検討する。
- 他のカテゴリーでのポイントアップ: 年収の上昇や、日本語能力試験(N1またはN2)、日本の大学卒業など、研究実績以外の項目で減少分を補填し、トータルで70点(または80点)を維持する。
指定データベースと変動要因の理解#
高度専門職のポイント計算で認められる「引用数」は、Google Scholarなどの任意のデータではなく、法務省が認める特定のデータベースに基づく必要があります。一般的には以下のデータベースが利用されます。
- Scopus (Elsevier)
- Web of Science (Clarivate Analytics)
これらのデータベースは、収録ジャーナルの見直しや、著者の名寄せ(Author IDの統合・分離)、自己引用の排除ロジックの変更などにより、数値が変動することがあります。特に、ボーダーラインぎりぎりの場合、更新時期に不運にも数値が下がっている可能性はゼロではありません。
まとめ#
高度専門職のポイント計算における論文引用数について、重要なポイントは以下の通りです。
- 申請時が勝負: 申請時点で基準を満たしていることを証明できれば、その後の審査期間中の微減は通常問題視されない。
- 在留期間中は安全: 許可後に引用数が減っても、現在のビザが直ちに取り消されることはない。
- 更新時は要注意: 在留期間更新や2号への変更時には、その時点での最新データで再計算されるため、引用数が基準を下回っていればポイントは消滅する。
高度専門職としての地位を長く維持するためには、ギリギリの点数で満足せず、常に複数の項目で余裕を持ってポイント要件を満たしておくことが、最も安全で確実な戦略となります。