永住権申請において健康診断書の提出が必要となる例外的なケースについて#
日本の永住許可申請は、外国人住民にとって在留資格の最終目標とも言える重要な手続きです。申請に必要な書類は多岐にわたりますが、基本的には公表されている提出書類一覧の中に「健康診断書」は含まれていません。しかし、実務上は健康診断書の提出が求められる、あるいは提出したほうが有利になる「例外的なケース」が存在します。
本記事では、通常は不要とされる健康診断書が、どのような状況下で入国管理局(出入国在留管理庁)から求められるのか、また自主的に提出すべき場面とはどのようなものかについて、客観的な視点から解説します。
原則としての提出書類と健康診断書の扱い#
まず、原則を確認します。出入国在留管理庁がウェブサイト等で公表している「永住許可申請に係る提出書類一覧」には、健康診断書は記載されていません。就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など)や配偶者ビザからの永住申請において、申請人の健康状態そのものが審査の第一義的な要件とはされていないからです。
日本の永住審査の三原則は以下の通りです。
- 素行が善良であること(素行善良要件)
- 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(独立生計要件)
- その者の永住が日本国の利益に合すると認められること(国益適合要件)
健康診断書が関連してくるのは、主に2つ目の「独立生計要件」に関わる判断においてです。
独立生計要件と健康状態の関連性#
永住許可を得るためには、将来にわたって日本で安定した生活を送ることができることを証明しなければなりません。通常、これは過去の就労実績や現在の年収、納税状況によって判断されます。
しかし、以下のようなケースでは、審査官が「将来の安定性」に疑問を抱く可能性があります。
過去に病気による長期間の休職期間がある場合#
申請直近の数年間に、病気や怪我で長期間休職していたり、退職して無職の期間があったりする場合です。現在は復職していたとしても、入管側は「再発して再び生活が困窮するのではないか」「安定して就労を継続できる健康状態なのか」を懸念します。
この疑念を払拭するために、「現在は完治しており、業務に支障がない」ことを証明する医師の診断書が必要となる場合があります。これは資料提出通知書(追加書類の要請)として求められることもあれば、申請時に自主的に提出してリスクを回避することもあります。
病気療養を理由に生活保護等の公的扶助を受けていた場合#
過去に生活保護を受けていた履歴がある場合、永住審査は非常に厳しくなります。すでに自立している場合でも、その自立が一時的なものでないことを証明するために、就労可能な健康状態であることを医学的に証明する必要が生じることがあります。
長期の海外渡航歴がある場合の説明資料#
永住申請には、日本に引き続き10年以上(特例では短縮あり)在留していることが必要です。しかし、病気治療のために長期間母国へ帰国していた場合、その「引き続き」の居住要件が中断したとみなされるリスクがあります。
この際、「日本での生活を放棄したわけではなく、不可避な病気治療のために一時的に出国していた」という合理的な理由を説明するために、海外の医療機関が発行した診断書や入院記録(和訳付き)の提出が求められることがあります。これは厳密には日本の入管法上の健康診断書とは異なりますが、医療記録が審査の可否を分ける重要な証拠となります。
伝染性疾患と公衆衛生上の観点#
極めて稀なケースですが、公衆衛生上の観点から健康状態が問われることがあります。入管法第5条には上陸拒否事由が定められており、その中には感染症などの患者が含まれます。すでに日本に在留している外国人に対して、永住審査の段階で改めて一般的な感染症検査を求めることは通常ありません。
しかし、過去に結核などの特定の感染症に罹患し、その治療経過や完治の事実が明確でない場合、あるいは特定の流行地域への渡航歴があり検疫等の観点から確認が必要と判断された場合には、特定の検査結果を含む診断書の提出を求められる可能性はゼロではありません。
資料提出通知(追加書類の請求)への対応#
永住申請後、審査の過程で審査官が必要と判断した場合、「資料提出通知書」が届きます。ここで「健康診断書」や「現在の病状に関する主治医の診断書」が指定された場合、提出は必須となります。
この要請を無視したり、提出を拒否したりすれば、立証責任を果たしていないとみなされ、不許可となる可能性が高まります。指定された期間内に、求められた項目(病名、現在の症状、就労の可否、今後の予後など)が網羅された診断書を医療機関で作成してもらい、提出する必要があります。
まとめ#
永住審査において健康診断書は原則不要ですが、申請人の「就労能力」や「生活の安定性」に疑義が生じる場合には、例外的に提出が必要となります。特に、過去の病歴が就労履歴に影響を与えている場合、医学的な証明は審査を有利に進めるための強力な武器となります。
自身の経歴に健康面での不安要素がある場合は、求められるのを待つのではなく、申請段階で医師の診断書を添付し、理由書の中で「現在は健康であり、将来にわたって安定した就労が可能である」ことを積極的に主張することが、誠実かつ賢明な対応と言えます。